カマンベールは、表面が白カビで覆われているチーズです。
日本で最も知られているフランスのチーズと言っても過言ではないでしょう。
それにしても、フランス産ではないカマンベールもよく売られています。これは何故なのでしょうか?
最初のカマンベール
カマンベールは、フランス・ノルマンディー地方のカマンベール村で生まれました。
フランス革命で、カマンベール村に逃げてきたブリ地方の司祭が、助けてくれたお礼に、ブリ・チーズの作り方を教えたという説があります。
1791年、カマンベール村の農婦、Marie Harel(マリーアレル)が、その教わったブリ・チーズの製法で作ったチーズがカマンベールの最初だと言われています。
え?ブリ?
ということは、カマンベールってブリなんでしょうか?
ブリも白カビのチーズですが、日本のスーパーでよく見かけるのは、円形ではなく、細長くカットされたチーズです。
ブリ・チーズにもいろいろありますが、カマンベールよりもサイズが大きいチーズなのでカットして売られているのです。

カマンベールになった理由
ブリの製法で作ったはずなのに、カマンベールになったのには、いくつか理由があります。
①サイズの違い
まず、ブリのような大きなサイズではなく、その地方で作られていた他のチーズの容器を使って、小さいサイズで作ったこと。
サイズが小さいので、チーズの熟成スピードが変わり、ブリと違う味わいになりました。
②牛の環境の違い

チーズはミルクから作られます。牛が何を食べていたかによって、ミルクの味が変わります。ミルクの味が変われば、チーズの味も違ってきます。
ノルマンディー地方は、イギリス海峡のそばです。ノルマンディー地方の牛は、潮風があたる草を食べています。
でも、ブリの産地、イル・ド・フランスは、海からは遠いので、牛は潮風の影響は受けていません。
その他に、牛が育つ天候などの環境の違いもあります。
だからブリの製法で作っても、チーズの味は違ってきます。
有名になったカマンベール
教えてもらったブリの製法で作ったにも関わらず、ブリとは異なる味わいのチーズになって生まれたのがカマンベールです。
カマンベールは、小さな木箱に入れられて作られました。
このため、長距離輸送するのが容易だったので、カマンベールが広く知られるようになったと言われています。
他にも、ナポレオン3世に気に入られたという逸話もあります。
また、第一次世界大戦の時には、小さい箱のパッケージが、切り分ける大型のチーズよりも便利だったので、兵士たちに配給されたそうです。
こうして、カマンベールはどんどん有名になっていきます。
いろいろカマンベール
有名になったカマンベールは、世界各地で作られるようになりました。
現在、日本市場には、デンマークなどフランス以外の国で作られた輸入カマンベールや、日本国内で生産されたカマンベールなどが多く販売されています。
もちろんフランスで作られたカマンベールもたくさん輸入されています。

産地保護が遅すぎた!
なぜ、「カマンベール」という名前で、こんなに多くの種類があるのでしょうか?
簡単に言えば、美味しくて人気があったわりに、「カマンベール」の産地保護をしていなかったためです。
フランスの農産物を保護するためのマーク、AOC(Appellation d’Origine Contrôlée 原産地呼称統制)を取得したのは、つい最近(!)の1983年なんです。
ちなみに、世界三大ブルーチーズの一つとして有名な「ロックフォール」は、偽物チーズが出回ったりしたために、カマンベールより60年近く前の1925年にAOCを取得して、産地保護をしていました。
カマンベールの場合は、産地保護をしていなかったために、気がついたら、世界中にカマンベールチーズが出来てしまったわけです。
ノルマンディーのカマンベール
そのため、本家本元のカマンベールは、「カマンベール」ではなく、「ノルマンディーのカマンベール(Camembert de Normandie)」と名乗って、産地保護のAOCを取得することになりました。

ここで、「AOC」についてのウンチクです。
AOCは、農産物の産地を守り、勝手に名前を名乗れないようにするための、フランスの制度です。
ワインを選ぶときに、AOCを確認する方も多いと思いますが、AOCはワインだけでなく、バターやチーズなどにもあります。
品質保証のマークとしては、EU加盟国の制度も1992年に作られています。
それが、AOP (Appellation d’Origine Protégée) (原産地名称保護)です。
AOCはフランスの制度ですが、AOPはEUの制度ですので、英語では、PDO、イタリアではDOPと言います。
カマンベールの選び方

AOC、AOPで保護されているのは、「ノルマンディのカマンベール」という名前のチーズです。だから、ただの「カマンベール」はいっぱい存在します。
味わいもいろいろありますが、大きく3種類に分類できます。
①カマンベール・ド・ノルマンディ

まず、本家本元のカマンベールです。ノルマンディーのカマンベールという意味です。
この本家本元のカマンベールの大きな特徴は、無殺菌乳で作られている点です。
無殺菌のミルクを使っているため、その土地ならではの個性があり、香りも強く、複雑な風味で濃厚な力強い味わいが特徴です。
若いうちは、表面は真っ白ですが、熟成してくると、赤茶色っぽい色があらわれてきて、香りもさらに強くなってきます。
ゆっくりと熟成していき、それぞれの熟成状態で楽しめます。
一般的に知られている他の「カマンベール」に比べると、まったく別の個性的なチーズだと言えるでしょう。
②カマンベール・オ・レ・パストゥリゼ
Camembert au lait pasteurisé
こちらは、低温殺菌したミルクを使って作ったカマンベールという意味です。
本家本元のカマンベールが無殺菌乳を使っているのに対し、低温殺菌したミルクを使ってつくるカマンベールは、その土地の個性が出づらくなり、風味がおとなしいチーズとなります。
状態が安定したマイルドで食べやすい味わいです。

上の写真は、いずれもフランスのノルマンディーで作られているチーズですが、味わいは全く違います。
左がカマンベール・ド・ノルマンディで濃厚で個性的なチーズ。右が低温殺菌したマイルドで食べやすいチーズです。
③ロングライフチーズ

日本のスーパーでよく見かける廉価のチーズは、これにあたります。
ナチュラルのカマンベールを、密封容器にいれて加熱処理し、熟成しないようにしています。
そのため、6ヶ月から1年という長期保存が可能となっているカマンベールです。
まろやかでクリーミーな味わいで、とても食べやすいチーズに仕上がっています。
カマンベールと飲み物
ノルマンディーはリンゴの産地としても有名です。
リンゴのお酒、シードルとも、非常に相性がいいですので、是非、試してみてください。但し、甘くないシードルの方があうと思います。
もちろん、ワインとあわせても美味しいです。特に、フルーティーな赤ワインがカマンベールの個性を引き立てるでしょう。
また、アルコールだけでなく、アップルティーのような紅茶と一緒に食べても美味しくいただけます。
カマンベールの食べ方

本家本元のカマンベール・ド・ノルマンディは、個性的な強い味わいがあるので、そのままカットして食べるのが一番です。
スライスしたリンゴとあわせてオードブルを作ると美味しいでしょう。
カマンベール・パストゥリゼは、穏やかな風味なので、そのまま、サンドイッチや、サラダにいれることもできます。
グラタンにいれて加熱しても美味しいです。
また、手頃な価格なロングライフのカマンベールは、丸ごと(上の部分を蓋のように切り落として)電子レンジで加熱し、即席チーズフォンデュのようにして食べると、気軽に食卓を楽しくさせます。
もしくは、衣をつけて揚げると、中がトロッとしたフライになって美味しいです。

それぞれのカマンベール!
ワイン好きとしては、本家本元のカマンベール・ド・ノルマンディ―の味わいの深さに魅了されていますが、マイルドなカマンベールも、もちろん大好きです!300円で買えるロングライフのカマンベールは、常に5箱は冷蔵庫に常備しています(笑)
それぞれの特徴を知って、それぞれの食べ方、飲み物の合わせ方、予算、一緒に食べる人の好み、いろいろな条件を考慮して、美味しいカマンベール・ライフを楽しんでください!!

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